山本 裕次
Yuji Yamamoto
トヨクモ株式会社 代表取締役社長。「情報サービスの大衆化」を掲げ、kintone連携サービスを中心に2万契約超のSaaSを展開。PLG(プロダクト・レッド・グロース)モデルで成長を続けてきた。
中村 健一郎
Kenichiro Nakamura
モキュラ株式会社 代表取締役。株式会社シャノンを創業し、2017年に東証マザーズへ上場させた連続起業家。同社退任後にモキュラを立ち上げ、AIカメラサービス「人の目クラウド」を開発中。
目次
―AIがカメラ映像を見て、異常をリアルタイムで検知し、kintoneへ即時通知する
この機能を聞いた時、多くの人はまず「監視カメラのちょっと賢い版でしょ?」と思うのではないでしょうか。でも、それは少し違う。いや、2人はまったく別物だと言う。
2025年10月にトヨクモとモキュラが業務提携を発表し、2026年4月には資本提携へと踏み込みました。トヨクモ代表の山本裕次さんと、モキュラ代表の中村健一郎さんに、出会いの経緯からAIカメラ事業「人の目クラウド」の核心、そして今後の展望まで、率直に話してもらった本音のインタビューです。
徹底したPLGモデル×「0→1」(ゼロイチ)経験者、ベストなタイミングで話は動き出す
—お二人の最初の出会いから教えてください。
山本:出会いは、シーコン(一般社団法人シーコンソーシアム)という、サイボウズのkintone連携サービスのパートナーが集まる業界団体です。
中村さんが初代から理事長をされていて、トヨクモは2020年ごろに本格的に参加し、私が理事になったことで交流が始まりました。実際にシーコンの集まりの中で、kintoneビジネスをどうしていくか、クラウド業界がどう変わるかのような議論を一緒にする機会ができてた、という感じですね。
中村:私自身、元々トヨクモさんのビジネスモデルに興味があったんです。トヨクモにいる方には分からないかも知れないけど、外から見たら本当に特殊な会社ですよね。
SaaS業界の多くは、セールスマンをたくさん抱えて人力で売っていくモデルなんですよ。私たちがシャノンでやっていたのもそう。2000年代はクラウドサービスを企業が自発的に使おうと思う時代じゃなかったので、もう人の力をフルに活用して売るしかなかった。
そんな中でトヨクモさんがPLGというモデルでここまで成長されているので「え、そんなやり方で本当にできんの?」って、正直思っていました。実際どうやってるんやろうって、すごく関心があったんです。
山本:楽してそうだって?(笑)
中村:いやいやいや(笑)
SaaSをPLGで売るなんてできないから人力で売るしかなかった時代から、PLGでやってたっていうことで…まあ、秘伝のタレはどうなってるんやって聞いていた感じですね。
—そこからどうやって「一緒にやろう」という話になったんですか?
中村:私がシャノンを退任するタイミングで、次はどうしようかなという時に、シーコンの懇親会の席で山本さんが「実は、いま面白そうなビジネスを考えてるんだよね」って話をされていたのがきっかけです。
後日、「是非一度聞かせてください」と私から声をかけて動き始めました。
山本:私にとっては、一番ベストな人が突然ふわっと出てきた感じですね。
元々AIカメラの領域には目をつけていて、実は以前にもその領域の会社をM&Aしようとしたことがあったんです。デューデリまでさせてもらったんですけど、やっぱちょっと難しいなと思って断念したりとか。やりたい熱量はめっちゃ高いんだけど、実際にどうビジネスにしていくかっていう、やり方の部分で難しいことが多かったんです。
あれこれ悩んでいたそんな時に、中村さんが満を持して登場してくれた(笑)
山本:やっぱり、ゼロからイチを立ち上げる…いわゆる「0→1」って、結構大変なんですよね。
考えるべきことはたくさんあります。どこをターゲットに、どういう仕様にして、どうマーケットに適合させていくか。その新規事業の立ち上げをビジネス担えるPMリソースが、トヨクモには不足していました。それに新規事業だけじゃなくて、もちろん今あるサービスも伸ばさないといけないし…という、さまざまな優先順位がある中で、PMとしての動きを注力してできる人がいなかったんです。
だったら成功確率の高い人と組んだ方がいい。中村さんは「0→1」の経験者だし、クラウドビジネスも先輩だし。一緒に立ち上げた方が、成功確率は何十倍も高くなるだろうと、確信していましたね。
「PLGでハードウェアを売れるか」——半年かけた検証
—業務提携をしてビジネスとして「人の目クラウド」というコンセプトにするまで、約半年かかっていますね。
中村:私と山本さんの直感だと、半年って非常に遅いんですよ(笑)。もっと早くできるんじゃないの?という感覚はありました。ただ、今回ネックになったのは、技術的に実現できるかという確認ですね。ここには、思いのほか時間がかかりました。
純粋なソフトウェアビジネスなら、話を聞いてすぐ「できる」と判断ができます。あとは工数とお金の話がまとまれば実行できるって、すぐ思えるんですけど…
今回難しかったのは、ハードウェアが絡みながら、PLGで売るという制約です。SLGで売るなら、そんなに悩まないです。でもPLGで売るとなると、お客さんが自分で設置して、セルフサービスで使えるの?という部分を、大丈夫と確信を持てるまで確認しないといけなかったんです。
4月頃に山本さんから話を聞いてから、2〜3か月で「分かった、腑に落ちた、ビジネスにできるな」みたいなところまでは来たんですけど、そこから3か月ぐらいはPLGで売るための技術面の検証にあてていました。
山本:どちらかといえば、クラウドに映像を持ってきてAIで処理するモデルはコスト的に成立しにくいんです。
通信量が多くなりすぎて、コストが跳ね上がってしまうんですよ。PLGで届けようとすると、提供コストが安くなければいけない。かといって専用ハードを作ると在庫リスクが出て、ゼロから立ち上げる事業としてはリスクが高すぎる。
「じゃあ一体どのやり方が現実的にできるのか」という部分を詰めていくのが、結構しんどかったですね。
問題を検知してから必要な人に通知されるまで何秒で届くか、ここが一番重要なわけです。遅いと業務として使えないじゃないですか。「うわ、なんかトラブルが起こってたな。じゃあ、ちょっと1時間前の動画どうだったの?」って録画を調べたって、DXにならないんです。このタイミングで通知が来れば業務になる、というスピード感で検知できるのかを検証して、業務として十分使えるレベルになったことを確認しました。
中村:「できます!やりましょう!」ってノリで始めるのはすぐできたと思うんですけど…でも、お客様に言っていたことが後になってできませんとは言えないし。
だから、本当に「これならできる」と確信を持てるところまで詰めたので、そこに時間がかかった感じですね。
山本:本当に、この部分にはかなりこだわりましたよね。
監視カメラとは根本から違う、今この瞬間に行動を起こせるサービス
—AIカメラ「人の目クラウド」とは、どんなサービスなんでしょうか。
中村:よく「監視カメラのちょっと賢い版でしょ?」と言われるんですけど、全然違うんですよ。
監視カメラって、録画してあとから人が見るものなんです。見ないと何も起こらない。録画がただストックされているだけで、現場は何も変わらない。何か問題が起こった時の証拠にはなりますが、それ以上でも以下でもないというか。
警備室で大量にモニターを並べて、じっと見ている人がいるじゃないですか。あれらを常に完璧になんか見れないですよ、正直。それにモニターを見るための人員を大量に雇えるのは財力のある企業だけですし。
人が見続けるのも現実的じゃない、だからといって録画じゃ遅い。
「人の目クラウド」は監視カメラや録画と何が違うかというと、AIが気づいて、現場で行動を取れるという部分です。人の代わりに見てくれてるんです。そして自分たちが本当に何か行動を起こしたいタイミングで教えてくれる。もちろん監視映像は残ってますけど、人が「見る」必要がない。自分から見に行く時間が、必要ない。
山本:「見ること」が仕事になっちゃってるんですよ、今は。本当は「何かあった時に行動すること」が仕事なのに。
中村:そうそう。見てた方がいいけど、見れないというのが現実で。人を常に貼り付けるのは、なかなか難しい。でも、常に監視しなければいけない現場や、そういった業務は山ほどあるんですよ。
夜の倉庫に必要ない誰かがいる、変電所に動物が入ったら感電して電気が止まることもある、病院でトイレに行こうとして倒れた患者さんがすぐに気づかれない、ということも実際ありますよね。でも「何かが起こった時だけ通知してくれたら、巡回や監視をし続けるのではなく、必要なタイミングではなくすぐに駆け付けられるじゃないですか」ということです。
一つひとつは小さな話なんですが、確かにあった方がいいよね、というユースケースが本当にたくさんあります。
山本:今だからこそAIがこれだけ安価にいろんなことを検知できるようになったから、このようなサービスが実現できるんです。
監視カメラのニーズと、カメラを通して行動を起こすニーズ、どっちが大きいかと言ったら、間違いなく後者の方が何倍も大きいはずでしょう。これは間違いなく次の時代に求められるサービスだと思っています。
モキュラがつくり、トヨクモが広げる
—2社の役割はどう分かれているんでしょうか。
山本:シンプルに言うと、モキュラがつくって、トヨクモが広げる、ですね。
日本で今、一番自分たちでDXをしようとしている会社を一番抱えているのが、kintoneのユーザーだと思っています。そこに人の目クラウドのような新しいソリューションを提供したら、「やってみたい!」という人が初期から絶対いると思っています。正直なところ、kintoneのユーザーに普及できなければ、このサービスをPLGモデルで提供することはまず無理だろうとも思っています。
逆に言えば、一番チャンスのある人たちが、そこにいるんです。ここで手応えを掴めれば、アジアから世界に展開できる。こういうニーズは絶対に日本だけじゃないですから。
中村:私もずっとマーケティングをやってきたので、広げていく難しさはよく知っているつもりです。
でも、トヨクモさんは圧倒的にお客さんがいる。しかも今まさにDXをやりたいと思っている人たち、まさにピッタリじゃないですか!
PLGをトヨクモと一緒にやらせてもらえるというのは、本当に楽しみです。これが噛み合えば、思っている以上のスピードで広げられるんじゃないかと思っています。
実際、モニターを始めて16日間で10社・31台のカメラが動いてます。しかも問い合わせはゼロですからね。カメラを登録してから動き始めるまで、大体20分ぐらいで到達していて…複数台の設定をやっている人は1台あたり10分少しですね。
山本:そう、問い合わせが全くないんです。そのために、マニュアルもかなり手を入れましたからね。自社社員に設定させてみて、自分たちが予想もしないような動きをすることも分かりました。なのでマニュアルに注釈を入れたりと、ここにもこだわりました。
中村:日常的にカメラや機械に触れていない業務系の皆さんが、スムーズにセットアップしているのを見て「お、これはいけるな」という手ごたえを早速感じています。
kintoneのお客さんって、本当にアーリーアダプターが多いと感じますね。自分で試して、使えると思えば広げていく人たちなんですよ。
山本:ここがPLGの頑張りどころです。
導入事例ができて、「うちもあの会社みたいにやってみたい」となる会社が増える。この繰り返しで広がっていくでしょう。
ハードウェアでもPLGは機能する、これを証明するのが私たちの使命
—今回の挑戦をどう位置づけていますか。
山本:ハードウェアがあることが、PLGの障壁にはならないということを証明したい。
まだ経験したことのないことだから、今回「人の目クラウド」を通じて証明する。それぐらいのフェーズにあると思っています。
中村:もしまたゼロからビジネスをやるなら、純粋なソフトウェアのクラウドサービスはやりたくないと思っていたんです。AIの進化で一瞬で沈んでいく会社を目の当たりにしてきました。大型のソフトウェア会社でも、AIの煽りを受けると影響を大きく受けるケースもありましたから…
だから「またやるんだとしたら、ハードウェアとAIとソフトウェアが絡むビジネスでなければリスクが大きすぎる」と思っていました。その意味でも今回の事業は、自分がやりたかったこととちゃんと合っているんですよね。
—最後に、読者にメッセージを。
山本:カメラと聞いた時に、「防犯カメラ」で止まる思想を変えていきたいですね。録画して、誰かが見て、何かあったことを確認する。その先があることを、今回のサービスで伝えていきたい。ここの思想を変えられるかどうかが、私たちが成功できるかどうかの分岐点だと思っています。
楽しみにしていてください…というか、誰より僕がワクワクしていますね!
中村:映像を行動に変える。それが当たり前になる世界をつくっていきます。
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