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AIはSaaSを殺すのか、それとも再定義するのか。
昨今「SaaS is Dead」、つまりSaaSの死という非常にインパクトのあるワードが、AIの爆発的な進化とともに語られ始めています。
昨日まで便利だったツールが、明日にはAIに代替され、不要なものに変わってしまうかもしれない。そんな不透明な時代において、SaaS企業はどこへ向かい、私たちは何を信じて働くべきなのか。今回は代表の山本さんに、その本音をぶつけました。
上場以来、無理な拡張をせず、苦しくても少数精鋭を守って着実に成長を続けてきたトヨクモ。変化を静かに見据えてきたからこそ実現できる、SaaSの死に立ち向かう独自の経営戦略に迫ります。
死ぬ企業もあれば生き残る企業もある、SaaSが死ぬのではなくビジネスの前提が変わる
ーSaaS企業の社長として、この「SaaSの死」についてどう思っていますか。
最近、至るところで耳にしますね。
率直に答えると「死ぬ企業もあれば、生き残る企業もある」、ただそれだけのことだと思っています。現在進行形で起きているAIの浸透が、これまでのビジネスのあり方を大きく変えるきっかけになることは間違いないでしょう。
今は「SaaSの死」という言葉に象徴されるように、我々のようなソフトウェアサービスを提供する企業に不安の波が押し寄せています。しかし、この波はいずれ全産業へと波及していくのではないかと考えています。
歴史を振り返れば、技術革新のタイミングで、それまで不可欠だったものが、その役割を終え、別の形へと置き換わる様を何度も目撃してきました。かつてレコードがCDになり、それがデジタルデータへと変化していったように。
ーまさに大変革期を迎えているわけですが、今後の変化をどのような時間軸で捉えていますか。
AI活用の方向性自体は、ここ2〜3年で一気に定着するでしょう。
ただ、データセンターの不足や消費電力の肥大化といった新しい課題も顕在化しているため、完全な社会実装のタイミングを予測するのは簡単ではありません。
こういった課題を目の当たりにすると、新たな価値を創出しようとするプレイヤーには、不確実な状況下でも戦い続ける意思と、それを支える原資が必要であると、改めて感じますね。
すべてはこの時のため、苦しくても少数精鋭を守り続けてきた理由
ーでは、トヨクモはこの変化にどのように対応するのでしょう。
この変化を、トヨクモが飛躍するための「最大のチャンス」にする。ここは揺るがない想いを持っています。
もっとも、現時点では具体的な根拠があるわけではなく、ある種の決意に近いものですね。そして、その飛躍にはトヨクモグループ全員の努力が必要です。
具体的な根拠はないと言いましたが、私たちはビジネスの形が劇的に変わる瞬間がいつか必ず来ると確信し、着実に準備をしてきました。
大勢で時間をかけて取り組む組織よりも、「少数の優秀な人間が技術を使いこなし、超高速で動く組織」の方が圧倒的に強くなる時代が来ると…だからこそ、私たちはあえて組織を大きくせず、苦しくても生産性の高い少数精鋭の形を守り続けてきました。その分、優秀な人材を獲得できるよう、平均給与を引き上げ、採用競争力を極限まで高めてきたのです。
そして、どんな長期戦になっても揺るがない高収益体質を築き上げてきたのも、すべてはこの時のためです。
世の中に漠然とした不安が広がっている今、私としては「いよいよ事業拡大の、攻めに転じるタイミングが来た」と、むしろ胸が高鳴っています。
ー具体的に、どのような展開を見据えているのでしょうか。
トヨクモのミッションは、ITを簡単に誰でも手に取りやすい形に、いわゆる「大衆化」することによって、世の中の生産性を高めることです。ですから、現時点で誰も見たことがないような最先端のサービスを生み出すような発明家になるつもりはありません。
トヨクモが注目しているのは、技術そのものではなく人の習慣が変わる瞬間です。
これまでのビジネス習慣のほとんどは、AIの不在を前提に作られています。しかし、一度AIの便利さを知ってしまったお客様が、旧来のやり方に戻ることはありません。必ずAIが当たり前にあるサービスを求めるようになります。その習慣の書き換わりこそが、私たちが動くタイミングだと捉えています。
技術が凄いと言われるうちは、まだ一部の人のものです。それが「当たり前」の習慣になったとき、トヨクモが最も得意とする圧倒的な大衆化のノウハウが、市場のパイを最大化させる。
かつて私たちが『安否確認サービス』を世に出したときもそうでした。東日本大震災という大きな転換点を経て、世の中が「自社サーバー(オンプレミス)」の限界を知り、どこからでも繋がる「クラウド」へと一気に舵を切った。あの時、技術の転換点を捉えてサービスを送り出したのと、今まさに起きていることは同じです。
むしろ、今回のAIによる変化はクラウドの時よりもはるかに広範囲で、根深い。これまで培ってきた大衆化のノウハウを、より大きなスケールで再現できるタイミングが来たと確信しています。
発明家ではなくフォロワーでありたい、当たり前の習慣ができた時がトヨクモの出番
ーそんなチャンスが来ている一方で、「Claude CodeなどのAIがコードを書くようになれば、わざわざSaaSを契約せずとも自作できてしまうのでは?」という声もあります。
その点についてはどう考えていますか。
そもそも、私は市場のプレイヤーが入れ替わるのではなく、役割が分かれているのだと考えています。
私のビジネス観では、商品やサービスを3つのカテゴリーに分けて整理しています。
1つ目は、百貨店に並んでいるような最高級のブランド品。
2つ目は、誰もが手に取りやすい価格で、生活を支える質の高い日用品。ユニクロや無印良品、ニトリのようなイメージです。
3つ目は、自分のこだわりを形にできる自由度の高いDIY。
Claude CodeなどのAIによって、ソフトウェアにおけるDIYの領域が拡大すると感じています。
しかし、DIYカテゴリーで成功し続けるには、絶え間ない改善と保守という継続的な努力が必要です。そもそもソフトウェアの世界にはオープンソースという無料文化も根付いていますから、マネタイズも容易ではありません。
それでも、その苦労を乗り越えて成功を収める「猛者」は必ず現れるでしょう。では、その猛者は最終的にどこへ向かうでしょうか。
おそらく、高機能を兼ね備えて高額で提供するブランド化するか、あるいは、より多くの人に届けるために安価で提供する日用品を目指すかの二択になると考えています。結局のところ、持続可能なビジネスにするためには、どちらかのカテゴリーを選択するはずだということです。
ここでようやく、トヨクモが主戦場とする日用品、つまりは大衆化された製品に必要な要件を考える必要が出てきます。
ーそもそも「SaaSもAIで簡単に作れる」というのは別のカテゴリーの話で、トヨクモは一般大衆化された日用品のカテゴリーの中で変化していくというわけですね。
その通りです、私は別のカテゴリーの話であると理解しています。
我々が提供する法人向けサービスにおいては、「事業継続性」が何より重要です。例えばトラブル時のサポートが期待できない無料ツールや、個人開発のDIYツールをビジネスの根幹に据えるのはリスクが高いのではないでしょうか。
「安心・安全への対価」という前提が崩れない限り、法人が対価を払ってサービスを利用する構造は変わらないと考えています。この前提が崩れたら、トヨクモも大変ですが…
この前提で考えると、たとえDIYから始まったサービスでも、一般大衆品の市場でメジャーになるには、法人が安心して利用できるだけの「体制」を築かねばなりません。そして、その体制を維持するには適切なマネタイズが必要になります。
ここで差がつくのは、その体制をいかに「低コスト」で運営できるかという点です。最も効率的で低コストな管理体制を維持できる企業が、お客様に対して最も安い価格を提示しつつ、最も手厚い安心を提供し続けることができます。
そういった企業こそが市場で長く戦い続けられる。私はそう確信しています。
ここからがモードチェンジ、不合理なコスト構造を破壊する攻めのトヨクモへ
ー「効率」を武器にした盤石な体制があるトヨクモも、この変化の波によって市場での競争力を失う可能性があるのでしょうか。
無いと言いたいところですが、失う可能性はあります。
ただし、急に明日から全てを失うような極端な変化が急に起こるわけではないでしょう。
先ほどお話ししたデータセンターの不足や消費電力の肥大化など、AIの社会実装にはまだ乗り越えるべき物理的なハードルが多く残っています。これらが解決され、技術が真に社会へ浸透するには、相応の時間を要するはずです。今回の変革は、もっと広範囲で、じわじわとビジネスの常識を塗り替えていく長期戦になるでしょう。
その「じわじわと広がる」過程の中で、新しい技術がブランド化され、世の中の普及が一段落したタイミングでこそ、私たちのような安価で高品質なものを提供する市場が最大化すると見ています。
私たちは、リスクを取って未知の技術を切り拓くイノベーターではなく、その技術を安価でシンプルに、誰もが使える形で提供するフォロワーでありたい。イノベーターたちが市場の形を固めたあと、その巨大なパイを大衆化によって一気に手繰り寄せる。そのタイミングこそが、私たちの出番です。
だからこそ、重要なのは既存の市場を必死に守ることではありません。新しく生まれる広大な市場へ、最適なタイミングで攻め入ることなのです。
上場直後の動画などを振り返れば、当時の私は「今は無理をせず、基礎体力を高める時期だ」と繰り返していました。機が熟していない時期に無理な拡張をすれば、いざという肝心な時に動けなくなりますから。
ーその温存していた力を、いよいよ解放するということですね。
その通りです。まさにこの瞬間から「モードチェンジ」します。
これまでは、既存のビジネスモデルや製品を徹底的に磨き上げ、組織の基礎体力を高めてきました。いわば「守りのフェーズ」です。しかしここからは、AIの活用が大前提となる世界。従来の人的コストを前提とした業務は次々とAIに代替され、価格競争のルールそのものが姿を変えていくでしょう。
私たちはその変化を恐れるのではなく、チャレンジャーとして自ら市場に切り込み、新たな基準を作りにいく「攻めのフェーズ」へ移行します。
他社から「トヨクモが参入してきたら、それこそSaaSの死だ」と恐れられるような、圧倒的な大衆化を実現したい。そう考えています。
これまでは、AIの不在を前提とした重いコスト構造の上にビジネスが成り立っていました。しかし、AIを徹底的に使いこなし、極限まで効率化されたトヨクモがその領域に参入すれば、これまでの「相場観」や「常識」は通用しなくなるでしょう。
従来のルールを、私たちは圧倒的な低コストと機動力で、より付加価値の高いサービスへと塗り替えていく。それくらいの気概を持って、市場のあり方そのものを変えていくつもりです。
この予測不能な変化を、脅威ではなく、自分たちの手で未来を書き換える「チャンス」として楽しめる。そんな仲間と共に、新しい市場を切り拓いていきたいですね。
これから、新しいサービスを次々と世に送り出していきますよ。
「攻めのトヨクモ」に、ぜひ期待していてください!
