OSSは「新しいこと」ではなく「続けてもらうこと」が重要 ーOSS開発者に継続的な支援を行うThanks OSS Awardについて

OSSは「新しいこと」ではなく「続けてもらうこと」が重要 ーOSS開発者に継続的な支援を行うThanks OSS Awardについて

飯塚 将志
開発本部

飯塚 将志

Masashi Iizuka (@liquidz)

2017年 トヨクモ株式会社 中途入社。

山下 直哉
開発本部

山下 直哉

Naoya Yamashita (@conao3)

2024年 トヨクモ株式会社 中途入社。

トヨクモを知ったきっかけと入社理由を教えてください


飯塚さん
トヨクモを知ったのはClojure界隈で有名な方が働いている会社であるということをX(旧Twitter)で知ったのがきっかけです。知った当時は転職を考えてはなかったので、こんな人と働きたいなと軽く思っていただけでした。
私自身も元々Clojureには興味があって個人的に書いていたということもあり、転職を考えた際に最初に思い浮かんだのがトヨクモ(旧サイボウズスタートアップス)でした。

実際に話を聞いてみてClojureで仕事ができること、また当時は1人が1製品を担当する体制を知り、責任を持ってじっくり向き合える環境に魅力を感じました。

山下さん
私はLispが書ける企業を東京で探していたのがきっかけです。コロナの影響で新卒では東京で就職が叶わず、転職する際は東京でと考えていました。「東京 Lisp」などで検索したところ、トヨクモを見つけ、採用サイトを見ているときに「Thanks OSS Award」の文字を見つけてさらに関心が高まりました。

元々vim-jpというエンジニアコミュニティで活動自体は知っていたので、そこで点と点が繋がり応募意欲の強い企業になりました。

個人的な信条として、重要な意思決定には少なくとも2つの根拠が必要だと考えています。トヨクモの場合、「Lisp(特にClojure)を採用している企業であること」と「OSSへの積極的な支援を行っていること」が、大きな2つの要因でした。

ーLispに対してはかなりこだわりも持っていたんですね。

山下さん
そうですね。
さらに理由を追加すると、出社を前提としている点も個人的には良い印象でした。20代の今、技術的にまだまだ成長できるし、していかなければならないと思っています。高いスキルを持った人と密なコミュニケーションを取ることで、最速で成長し、その成長を会社に還元したい。そんな思いが強くありました。

事実として私はトヨクモに入社するまでClojureの経験はありませんでした。しかし入社から3ヶ月くらいで言語についてはキャッチアップでき、今では思い通りのコードを書くことができています。これはトヨクモのオンボーディングの充実とチームメンバーのみなさんの支援があってこそだと感じています。

飯塚さんがThanks OSS Awardを始めた背景とOSSに対する思いを教えてください


飯塚さん
OSSについて支援をしている会社がすでにあり、自分たちもOSSを使うだけでタダ乗りするのではなく支援もやりたいよねということを上長と話していたのが最初のきっかけだったと思います。
その後、予算が確保できたという話をもらい実際に始めることになったのですが、一番気をつけて考えたのは「支援する目的」でした。

ー単純に便利なOSSを書いたエンジニアを表彰するという目的ではないんですね。

飯塚さん
その通りで、ThanksOSSアワードにおける支援の目的は「継続」としています。

自分自身もOSSを開発する身としてよく目にするのが開発が止まってしまうことです。OSSはあくまで個人的な趣味として始まることが多く、個人的な時間を消費しての開発になるのでモチベーションが高い時であれば問題ないものの、ライフステージの変化などでモチベーションが下がってしまい開発をやめるというケースもあります。
このようにOSS開発では継続がとても難しいんです。あくまで個人的な開発なので止めるのは個人の自由ですが、それを便利に使わせてもらっている側としてはできれば気持ちよく開発を続けてもらいたいという思いがあります。

何か新しいことを始めてもらうのではなく、今やっている開発を「継続」してもらうことが目的であるので、支援に対する見返りを求めることはありません。
「ThanksOSSアワード」という「ありがとう」が入っている名前も、OSS開発への感謝と、一方的な支援(表彰)からそのようにしています。

このような気持ちからThanksOSSアワードは始まっています。

山下さんはThanks OSS Awardの存在を知った時どう思いましたか


山下さん
まず純粋に「OSSプロジェクト」への支援を行なっていることに驚きました。エンジニアコミュニティやカンファレンスへの協賛は良く聞きますが、OSSへの支援を行なっている日本企業は数少ない印象です。
次に驚いたのはその支援の規模ですね。日本円にして1,000万規模の寄付額に、目を疑った覚えがあります。

その後詳しく読んでいく中で、公式ページに掲載されている活動の背景と目的にもとても共感しました。
OSSプロジェクトは基本的にボランティアベースで運営されており、企業はそれをライセンスの範囲内で自由に使うことができます。しかしその自由に対する企業の社会貢献として行動に移していることに良い印象を受けました。

近年、技術の新陳代謝のスピードが加速しメンテナンスコストが増大する中、多くのOSSプロジェクトが経済的な支援なしのいわゆるパッションプロジェクトとなっていることが問題になっています。この支援の輪が広がりIT業界全体の健全な発展に繋がると良いなという希望を持ちました。

ーでは山下さんも今後は運営側として活動したいなど思われますか。

山下さん
その気持ちはあります。
実際の選考段階では山本代表から『毎年エンジニア1人くらいの給料の規模で支援を行いたい』という話を聞き、エンジニア以外の経営陣も支援に対して思いを持っていることを知りました。
OSSを生み出す立場にもありながら、今度は支援をする側の立場になり、両面から業界全体に貢献したいと考えます。

2人がやっているOSSの取り組みを教えてください


飯塚さん
私の場合は単純に「自分が欲しいものを作る」ということだけです。

元々何かを作ることが好きでその延長線上にはなるのですが、作っていく中で不便に思ったものをまた作り、それを作っていく中で不便なものを...の繰り返しです。そうして作ったものをOSSとして公開しているだけなので私にとってのOSS開発は完全に趣味となります。

私が開発しているものである程度名が知られているのは「vim-iced」というOSSで、これはVimというエディタ上でClojureを開発するための機能を提供するものです。
これはトヨクモ(旧サイボウズスタートアップス)に入社後に開発したもので、Vimでも快適にClojureを書きたいという気持ちから生まれたものです。
このOSSは国内よりは海外で使ってくださっている方が多く、使っている方が所属する企業からオファーをもらうなど驚いた経験もありました。

このように「自分のために作ったもの」が他の人にとっても便利と思ってもらえることはとても光栄です。こういう機能追加してほしいとか、こう直してほしいとかっていう要望が来ることもあって、より便利に思って欲しいという気持ちもないことはないですが、自分が楽しんで継続できることが自分にできる一番の貢献かなとも思うので「自分のため」という芯はぶらさないようにしています。

山下さん
私にとっては「エンジニアのネットゲーム」だと思っています。コードを贈り、贈られ、普段なら出会えないような人々とコミュニケーションを取る。そして、その過程で世界がどんどん便利になっていく。これほど楽しく、やりがいのある活動はありません。

私が開発している中で代表的なものは、Emacsというテキストエディタの設定を簡単に書けるようにする「leaf.el」というOSSです。
leafは私が初めて本格的に書いたOSSです。自分のプロジェクトが評価されるのは、まるで自分の子供が評価されるようなもの。自分自身への評価とはまた違う嬉しさがあります。
私もOSSの活動を通して寄付を受け付けており、ユーザーのみなさんからサポートを頂いています。無料で使えるものに対してお金を払ってもらえるというのは、私が届けている価値に対する最大の評価だと感じています。金額の多寡によらず私にとって大きなモチベーションになっています。

Awardの取り組みで印象に残っている出来事と、今後の展望を聞かせてください

飯塚さん
広く知られているというわけではないですが「トヨクモ = OSSを支援している会社」のように思われていそうな発信を目にすることがあるのは嬉しいところです。

今後に関してですが、Thanks OSSアワードはOSS開発者の「継続」を支援するためにもThanks OSSアワード自体を「継続」して行うことが重要だと思っているので、何か新しいことを取り入れるというよりは継続を意識して支援できる体制にしていきたいなと思っています。

今回お話の中に度々出てきた、Clojureに関しても話を聞かせてください

飯塚さん
自社の製品開発の基盤としているだけでなくClojurists Togetherなどでコミュニティへの支援も長く行っている点について頼もしくもあり誇らしくもあります。

山下さん
Clojureはトヨクモになくてはならないものであり、言い換えるとClojureによって利益を上げられていると言っても過言ではありません。この意識はエンジニアだけではなく社長を始めとする経営陣にもその意識があり、会社として継続的に支援していくと採用面接のときにお聞きできたのが印象に深く残っています。
私もその姿勢とその行動に共感し、今となってはトヨクモの一員として誇りに思っています。

あとClojureは安定してるんですよね。
Webの技術は流行り廃りが激しい中、破壊的な変更が少なく、言語のアップデートにかかるメンテナンスコストが低い点も魅力ですよね。

Clojureをメインに使用する珍しい会社ですが、トヨクモならではの強みは

飯塚さん
何事にも主体的になれる点でしょうか。
良い意味で上下関係がほぼ無く、こうしたいああしたいが言いやすいし実行しやすい環境というのは大きな強みかなと思います。

山下さん
トヨクモの強みは、「良い」の連鎖にあると考えています。
良い開発組織と良いプロダクト、そして良いセールスのみなさんがいて、良い業績を生み出しています。
特に開発本部としてはCTOの木下さんの情報発信にある通り、昇給で1000万円を超えるという目標を達成しています。挑戦や成果に対してきちんと報いるという会社のメッセージを受け取ることが出来ました。

また人事評価も分かりやすく公開されており、会社が何を求めているのか、ネクストステップではどんなことができるようになったらいいのかキャリアプランが立てやすくとても働きやすいです。
良い給料をもらうために良い仕事をする。そんなポジティブなループのなかで、自分の成長を感じながら楽しく働くことができています。

最後に、今後の2人の目指すエンジニアとは

飯塚さん
長く使われるものを開発・運用できるエンジニアでしょうか。
長く使ってもらうためには既存機能の改善だけでなく新しい価値をスピーディーに提供する必要がありますし、それを長く運用するためには運用のしやすい製品作りをする必要があります。
相反するような内容ですが、それらをバランスよく選択・実行できるようなエンジニアになりたいなと思っています。

山下さん
私の目指すエンジニア像は、「Lispの力を現代のソフトウェア開発に最大限活かせる人材」です。
エンジニア界隈ではLispは「神の言語」と呼ばれることがあります。そしてポールグレアムさんのエッセイ「普通のやつらの上を行け」でもLispの有用性が語られています。
Lispの中でも特に我々が採用しているClojureは多くの企業が今までもそしてこれからも多額の投資をしているJVMで動いており、コミュニティも大きくまさに現代のLispとして採用可能なLispです。

一方、日本においてClojureを採用している企業はほんの一握りなので、ここに私たちの挑戦があると思います。企業活動におけるプログラミング言語の採用において「成功」とは何なのかをCTOの木下さんと話しています。そして、それは最終的に「利益」をもたらすことだと考えています。
Clojureを採用する我々がユーザーにとって使いやすく便利な製品を早く高品質で届けられること。それを証明するのが弊社の開発組織であり、私自身もそれを体現する「ハッカー」になりたいと思います。
そして同じようなマインドを持つ人と一緒に働きたいと思っています。

この記事をシェアする

この記事に関連する求人情報

採用情報を見る